2022/07/28

五条坂陶工物語

訪問看護がきてくださるあいまをぬって買い物へ。
帰宅して昼食を食べながら本をひらく。

藤平長一・北沢恒彦『五条坂陶工物語』晶文社 1982

たぶん持っていたような気がして買えなかった。
前の職場に置いてきたらしい。
結局見つからないので先日古本屋で求めた。

北沢恒彦は黒川創の父、秦恒平の兄。この家族には多くの物語がある。
それはともかく、この本はなかなか面白い。
7割は五条坂を拠点とした製造卸の藤平氏を話者とした北沢の聞きがき、
後半2割は藤平氏の筆になる回想。さいごの1割が北沢の臭覚を活かした「考察」である。
もちろん工芸史の専門家、あるいは民俗学者にでも書かせたらまた違う本にもなろう。
産地というのは得てして「記録」がなされないものだ。
著者の「しごと」のなかから生まれていった作品。

176頁
……この東山七条をさらに南に一駅(注:市バスの停留所)いくと、今熊野である。たしかめていないが、たぶんそういうはずだ。京都駅から出た鉄道の架線が東山トンネルに吸いこまれる。その架線の上を南北に東大路がよぎるわけだが、その橋をなんというのか、これもたしかめていない。「今熊野橋」であっても不思議ではない。こんなことは地図でもみればすぐわかることなのだが、たまたま手許にないという理由からではなく、私はこの文章を、こうしたちょっとあやふやなところで書いていこうと思っている。その方が長年京都で生活している人間が、自分のごくふつうの生地のところで、自分の街を見直すときの感じがよくつかめそうな気がするからである。……

こういうところはたしかに魅力なのだが、京焼の概要、産地としての推移について、
もうすこし説明がないと、一般読者にわからないことが多いのではと感じる。
ちなみに橋の名は「今熊野橋」、バス停は「今熊野」である。

読んでいて息子の黒川創に通じる文章と思う。





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